馬場ゼミナール

ゼミの指導方針
もっとも重要なことは「勉強する」ことです。それが唯一ゼミの存在意義であると思っています。仲間意識や達成感や自信が副産物として伴うと学生の満足は上がりますが,できれば満足はもっと先にあればと思います。具体的には次の通りで,約10年前に作文しました。
1)理論の重視
理論無くして複雑な経済現象を理解することはできません。ところが現実をより良く理解するための理論を探し出すには膨大な量の文献を猟歩しなければなりません。研究テーマに応じて,日本語,英語にかかわらず,論文や書籍をコツコツと読んでいくしかありません。大変な作業ですが,一人夜中に文献と格闘していると,時に自分の思考に大きな影響を与えてくれるものに出会うことがあります。「深夜2時の感動」の後には一回り大きくなった君が居ます。
理論の海にどっぷりと浸かりきるといつしか自分なりの問題意識がはっきりとしてきます。こうした問題意識を分析フレームや仮説に落とし込んでいきます。次に待ち受けているのは「現実のチェック」です。
2)データは足で稼ぐ
理論を現実のフィルターに通過させるためにはデータが必要です。そして,このデータ収集はとても重要なプロセスです。なぜなら,自分たちでアンケートを作成したり,めったに受け入れてもらえない企業インタビューに緊張しながら赴いたり,日本の常識が通用しない外国で現地調査をおこなったりすること自体に大きな意味があるからです。実は,自分たちの知りたいことを「測定する」ことこそがとても難しいのです。なんらかの調査を行った後に初めて「何を測定したかったか」がはっきりすることもしばしばです。
3)実証分析
理論をデータによってチェックする時にはさまざまな分析手法を用いることができます。統計解析,ケース・スタディー,実験,シミュレーション…どんな手法であれ,まずはやってみることが大切です。近頃のソフトウエアはかなりユーザー・フレンドリーになってきているのでなんとかなります。いや,正確に言うと何とかしてもらう必要があります。私はデータ分析の専門家ではないので,一緒に勉強していくわけです。
4)情報発信
論文を執筆して,報告の機会があればどこにでも出かけていくのが基本姿勢です。ウェブでの公開,懸賞論文への投稿,学会や研究会での発表,討論会のオーガナイズなどなんでもやります。よりシビアに批判してもらえる場所ほど報告の意義があります。自分たちの研究成果をよりよいものにするためには欠かせません。まあ,相当の「度胸」が求められますが,場数をふめばなんとかなります。
5)ビジネスへの応用
ここまでは教員である私がお手伝いできることですが,学生の皆さんにはこのゼミで得たものの見方やスキルを実社会で活用するという大きな課題が残っています。まあ,これは私の切なる願いでもあります。
また今後は,最近増えているビジネス・アイデア・コンテストにも参加してみようと考えています。一昔前の学生と最近の学生との違いのひとつは,良きにつけ悪しきにつけ「起業」に関心を持っている点だと思われます。ゼミでの学習の成果をこういう場で問うことは,学生にとっても教員にとっても良いリトマス試験紙になるでしょう。
ゼミの活動全般
2年次後期にプレゼミが始まります。ただし,プレゼミは3年次以降のゼミへの入室を前提としない,いわばお試し期間です。2年次後期の半年間では,日本にいる外国人旅行者ないし留学生に対する調査を行っています。仮説構築,質問紙調査,フィールドワーク,参与観察,そして,統計解析を一通り経験します。ですが,「理論禁止」です。つまり,先行研究から概念や理論を引っ張り出すのではなく,「もっともらしい(plausible)」仮説を現実から見つけ出すことに重きを置いています。理念的には,外を見つめることを通じて自らを相対化する,つまり自分を見つめ直すことができればいいと思っています。道具的には,メールの書き方や情報の収集の仕方や各種ソフトウエアの使用法やプレゼンの経験などがついてきます。
3年次がゼミ活動のメインです。グループで論文を執筆してインカレで報告します。政情不安が無い限り,海外調査を行います。これまで,バンコク,台北,香港,シアトルといろいろな都市を旅してきました。海外調査の目的はいくつかあります。まず,学生が約20年間で培ってきたマインド・セットを問い直すことです。悪しき関大生にありがちなのは「知的関心に欠ける」「しゃべらない」「マナーを知らない」の3点です。まあ,海外に行かずとも日本でも使えないヤツですね。これを自覚してもらうことが大事です。次に,自前でなんとかすること。最近は留学といっても大学や業者が全部面倒を見てくれます。いざ自分で旅をするとまったく鼻がききません。知らぬ土地で危険を回避し,審美眼を発揮し,そして,現地理解を試みること,つまり,旅は,自ら調べ,自ら計画を立て,自ら行動することで初めて現実的に経験しうるものです。最後に,考え続けることです。ものを考えるよいきっかけのひとつは,強い刺激です。マイクロソフトの本社でのプレゼン,バンコクのソイに苔むす貧困,自分たちよりもはるかにかしこい台湾国立大学の学生…10年後にその時の記憶を醸造し続けている学生とは酒を飲めます。これからも放浪は続きますが,最近は卒業生と世界のどこかで会うことを具体化しようと思っています。
4回生では個人で卒論を書きます。それ以上でもそれ以下でもありません。
IBインカレに対する考え
何と言っても,教員同士が仲がいいのが美徳だと思います。飲み会楽しいです。ただ,この手のイベントは,もうしばらくすると固定化し,停滞するので,その時には何かおもしろい仕組みを導入する必要有りです。キーワードは「OB・OG」と「海外」かな。あとついでに言うと,ついつい大会前日に飲み過ぎてしまうので,今年は自重します。
IBインカレで学生に期待すること
会場からの英語質問に答えられずフリーズすることです。教員の千の言葉にも勝ります。こうした苦い経験を自省し,かつ,いかに糧にできるかがその後の成長を決めると考えています。